目次
はじめに
DCDCコンバータを扱うことが多いのですが電子負荷を持っていないので性能のチェックができないでいました。また、電源が壊れているかの判定もできていませんでした。流石にほしいなってことで設計して自作してみることにしました。
今回は原理から実際に組む回路の設計までを行います。
電子負荷とは
ざっくり言うと電子負荷は可変な容量の大きい抵抗です。基本的な定電流モードでは設定した電流を流れるように抵抗値が変化します。
電源の性能を測定する際に使用します。定電流を流したときにどれだけ電圧が低下するか、みたいな感じです。
要件
・定電流/定抵抗/定電圧モードを備える
定電流モードは電圧が下がっても、一定の電流を流し続けるモードです。
定抵抗モードは抵抗器と同じで電圧によらず一定の抵抗値を維持します。
定電圧モードは設定の電圧になるまで電流を流します。
・マイコンで制御できるようにする
マイコンと組み合わせて電圧・電流の自動計測や、過電流の保護などを行える設計とします。
・マイコンなしでも動作するようにする
面倒なアナログ回路をマイコンに押し付けるのではなく、マイコンが無くても動作するような設計します。
・自分の勉強になるように挑戦する
断片的にアナログ回路を扱うことはありましたが、1からの設計でまともな物を作ったことがなかったので勉強になるようにまともに設計を行います。
電子負荷の基本的な構造
NchMOSFETと電流測定用の抵抗、MOSFETを適切な値で動作させるためのオペアンプからなります。
NchMOSFETとオペアンプに関する基本的な知識がある前提で書きます。
簡単のために電流測定用の抵抗は1Ωです。
定電流モード
手書きの汚い回路図ですが、原理はこんな感じです。
yとRでの分圧でx[V]が決まります。オペアンプは、1Ωにかかる電圧がx[V]になるように出力を調整します。そのため、1Ωの抵抗に流れる電流(=INの電流)はx[A]となります。
yとRの抵抗値で決まる電圧x[V]は常に一定なので常に一定の電流が流れます。
数式にすると
$$
x = \frac{R}{y + R}V_{DD}\:[A]
$$
となります。Vinの値に関係なく電流が決まっています。
定抵抗モード
定電流モードと異なり、VDDがINとくっついています。定電流モードから、VDD=Vinとなっているので、数式にするとINから見た抵抗値rは
$$
x = \frac{R}{R + y}V_{in}
$$$$
r = \frac{V_{in}}{x}=\frac{R + y}{R}\:[Ω]
$$
となります。Vin・Iinの値に関係なく抵抗値が決まっています。
定電圧モード
これまでの2つは大きく異なります。1Ωの抵抗はあっても無くても動作は変わりません。VDDの電圧を分圧したx [V]とVinが同じ値になるようにオペアンプ・NchMOSFETが動作します。
数式にすると、
$$
x = V_{in} = \frac{R}{y + R}V_{DD}\:[V]
$$
となり、定電流モードと同じになります。
実際に使用する各モードの回路
先程の回路では電流計測用の抵抗が1Ωなので発熱がすごいことになってしまい、処理が面倒です。なるべくMOSFETで発熱を処理したいです。そのため、1Ωでは無く0.2Ωを使用することとしました。各設定値の範囲は、0~50V、0~50A、1~∞Ωということにしました。これは、使うMOSFETの安全動作領域(SOA)によって変えるべきです。
定電流モード
先程の回路図を書き直しました。
この時、R1の電圧xと電流は
$$
x = \frac{r}{R_2 + r}V_{DD}
$$$$
I = \frac{x}{R_1}
$$
より
$$
I = \frac{r}{R_1(R_2 + r)}V_{DD}\:[A]
$$
今回、R1=0.2Ω、VDD=5Vなので
$$
I = \frac{25r}{R_2 + r}\:[A]
$$
となります。これより反比例ですが、rが大きくなるとIが大きくなることがわかります。r=0~5 kΩで最大で15Aなのでr=5kの時、I=15であれば良いので
$$
15 = \frac{25\times5000}{R_2 + 5000}
$$$$
R_2 = 3333.\dot{3}\:[Ω]
$$
となり、3.3kΩあたりであれば良さそうです。
定抵抗モード
定電流モードの時から
であり、VDD=Vinなので、定電流モードの時の式から
$$
I = \frac{r}{R_1(R_3 + r)}V_{in}\:[A]
$$
となります。全体の抵抗Rは
$$
R = \frac{V_{in}}{I} = \frac{R_1(R_3 + r)}{r}\:[Ω]
$$
となります。今回、R1=0.2Ωなので
$$
R = \frac{0.2(R_3 + r)}{r}\:[Ω]
$$
これよりrが大きくなると抵抗値Rが小さくなることがわかります。抵抗の最小値を指定する必要があるので、r=5kΩ時にR=1ΩとなるようなR2を計算します。
$$
1 = \frac{0.2(R_3 + 5000)}{5000}
$$$$
R_3 = 20000\:[Ω]
$$
となり、20kΩにすればいいです。ちなみに、r=0とすると、R=∞となります。
定電圧モード
定電圧モードは少し計算が面倒です。VDDから分圧して生成されるx [V]は
$$
x = \frac{r}{R_6 + r}V_{dd}\:[V]
$$
です。Vinから分圧して生成されるx [V]は、
$$
x = \frac{R_5}{R_4 + R_5}V_{in}\:[V]
$$
です。この2つの式をVinについて解くと
$$
V_{in} = \frac{r(R_4 + R_5)}{R_5(R_6 + r)}V_{DD}\:[V]
$$
となります。VDD=5V、R6=R2=3333Ωなので、
$$
V_{in} = \frac{5r(R_4 + R_5)}{R_5(3333 + r)}\:[V]
$$
となります。これより、rが大きくなると、電圧が大きくなることがわかります。電圧の最大値は50Vであるため、r=5kΩの時は以下のような式になります。
$$
50 = \frac{5\times5000(R_4 + R_5)}{R_5(3333 + 5000)}\:[V]
$$$$
R_4:R_5=7833:500
$$
となります。これを満たす良い感じの組み合わせとして、R4=47kΩ、R5=3kΩがあるので、これを使います。
各モードを1つの回路にする
3つのモードの抵抗値等を決めたので1つの回路図にしています。
$$
R_1=0.2\:[\Omega]\;R_2=3.3 \:[k\Omega]\;R_3=20\:[k\Omega]\;R_4=47\:[k\Omega]\;R_5=3\:[k\Omega]\;r=0~5\:[k\Omega]
$$
こんな感じで2つのスイッチでモードを切り替えられそうです。オペアンプが2つあるのは、使用する予定のオペアンプLM358が1つのパッケージに2つのオペアンプが内蔵されているためです。上のオペアンプが定電圧モード時に使用され、下のオペアンプは定電流・抵抗モードで使用されます。
右のスイッチは、R3が定抵抗・電圧モードで使用され、R4が定電流モードで使用されるのでその切替です。
実際に作成した回路(リレー版)
回路図と説明
リレーを使用した回路はこんな感じです。
いろいろ追加されているように見えますが、D1、R6、R7、C1はゲートの電圧が急激に変動するのを防ぐ回路です。Q2、Q3、R8、R9は可変抵抗VR1を動かすこと無くQ1を”切り”にすることのできる回路です。R12、R13、D3は入力電圧をマイコンで計測できるようにするための分圧と保護を行っています。D2も可変抵抗VR1による設定値をマイコンで読み取るための保護です。Q4、R10、Q5、R11はリレーの駆動回路です。
シミュレーション結果
LTspiceを使用してのシミュレーションです。
横軸を可変抵抗の値にして、定常状態のみを計測したいので、NchMOSFETのゲートのコンデンサは外してあります。
可変抵抗は1~5000Ωの間です。横軸になるようにしています。
「電圧/電流・抵抗」と「抵抗/電流・電圧」の接続を3.3VかGNDにするかで切り替えを行います。
定電圧モードのときは電源の電圧を50Vにしたうえで内部抵抗値を10Ωにします。
定電流モード
横軸がV単位になっていますが、Ωに読み替えてください。
直線的では無いですが、概ね良い特性です。しっかり0~15Aになっています。このような特性になるのは、式が反比例なものとなっているからです。
定抵抗モード
入力電圧は12Vです。
赤色の線が抵抗値で、緑色の線が電流(12V電源)です。とんでもなく特性が悪いです。100~5000Ωを拡大したものが下です。
負荷として実際に使用する抵抗値は100Ω以下だと思うので、ギリギリ使えるかも…って感じです。仕方がないので、実機では微調整用の可変抵抗を追加します。
定電圧モード
入力電圧は50V、電源の内部抵抗は10Ωです。
これも反比例なので直線的な直線にはなりませんが、特性は悪くありません。他の2つのモードと異なり、可変抵抗の値が大きいと設定電圧が小さい⇔電流が大きいので、可変抵抗の値を変えずに動作モードを変えると電流が流れすぎる、みたいなことが起きそうです。
実際に作成した回路(半導体版)
回路図と説明
リレーを半導体に置き換えたバージョンです。置き換えた回路は「MOSFETを使ったc接点リレーの等価回路」のトランジスタを使用した回路を使用しています。
ずいぶんと部品が増えました。コスト的に挿入実装であれば、リレーを使用したほうが安いと思います。
シミュレーション結果
シミュレーションに用いた回路は下のとおりです。NchMOSFETのゲートに接続されているダイオードとコンデンサは過渡応答ではなく、可変抵抗を変えた時の電流を測りたいので、取り外しています。
定電流モード
リレーと同じ感じの特性です。
定抵抗モード
入力電圧は12Vです。
リレーの時と同じで特性がかなり悪いです。下が100~5000Ωを拡大したものです。
リレーの時と同じ感じです。
定電圧モード
入力電圧は50V、電源の内部抵抗は10Ωです。
リレーと同じです。
おわりに
意外と仕組みが単純だったのでなんとかなりました。
次回は実際にKiCadに回路を起こして、基板の作成・マイコンなしでの実装と動作確認を行ってみようと思います。