目次
- はじめに
- アナログ回線とは?
- ハイブリッド回路とは?
- ブリッジを使ったハイブリッド回路
- 作動増幅回路を用いたハイブリッド回路
- 出力のゲイン調整ができるハイブリッド回路
- トランスが不要なハイブリッド回路
- トランスが不要なハイブリッド回路
- おわりに
はじめに
黒電話をRaspberry Piに繋げてIP電話を作ろう!というプロジェクトの一環でハイブリッド回路の設計を行なったのでまとめます。計算も含めたちゃんとした解説がインターネットになかったので書きました。
アナログ回線とは?
固定電話にはアナログ回線とデジタル回線の2つがあります。名前のように信号方式がアナログとデジタルです。アナログ回線には、パルス回線とプッシュ回線の2通りがあり、ダイヤルの送信方法が、回路を遮断するパルスの個数なのか、特定の周波数なのか、が異なります。回線自体は同じですが、交換局の仕組みが異なります。
ハイブリッド回路とは?
アナログ回線で使用される導線は2本のみです。GND線などはありません。2本で送信と受信の2信号のやり取りをしています。そのため、送信と受信を分離するには専用の回路が必要です。それがハイブリッド回路です。
ブリッジを使ったハイブリッド回路
トランスを用いたハイブリッド回路としてトランスと同じインピーダンス値の抵抗3本を使ったブリッジ回路が有名です。
この回路図を交流に関して等価回路とすると、以下の様になります。
\(R_1 \)はトランスのインピーダンス、\(v_p \)は電話からの信号、\(v_{in} \)は入力信号です。
このとき、出力電圧に対して解くと
\[v_{out+}=\frac{v_{in} - v_{p}}{R_1 + R_2}R_1 + v_p \\
v_{out-}=\frac{v_{in}}{R_3 + R_4}R_3 \]
となり、出力は
\[v_{out+} - v_{out-}=\left(\frac{R_1}{R_1 + R_2} - \frac{R_3}{R_3 + R_4}\right)V_{in} + \frac{R_2}{R_1 + R_2}v_p \]
となります。出力は\(v_{p} \)のみの項になってほしいため、
\[\left(\frac{R_1}{R_1 + R_2} - \frac{R_3}{R_3 + R_4}\right)=0 \]
\[R_1:R_2=R_3:R_4 \]
となれば良いようです。また、出力のゲインは
\[v_{out+} - v_{out-}=\frac{R_2}{R_1 + R_2}v_p \]
となり、1は必ず下回りますが、比較的自由に設定することができます。
この回路は単純でオペアンプが不要なのが良いですが、出力のマイナスと入力のマイナスが共通ではないので面倒です。共通にしようとするとしたの回路図のように差動増幅回路を入れないといけないので一気に部品点数が増えてしまいますし、差動増幅回路の入力インピーダンスが十分に大きくないといけません。しかし、設計の幅が広く、出力のゲインが大きく取れるので、かなり使いやすい回路だと思います。
作動増幅回路を用いたハイブリッド回路
なひたふ新聞「電話回線」で紹介されている回路です。ブリッジを使ったハイブリッド回路での欠点を解消しています。
この回路図を交流に関して等価回路とすると、以下の様になります。差動増幅回路周りは
Electrical Information「【差動増幅回路】『原理』&『式の導出』&『用途』について」
の番号割り当てを参考にしています。そのため\{R_4 \}は存在しません。
このとき、オペアンプ入力に対する式を立てると
\[v_{OPA+}=\frac{v_{in} - v_p}{R_3 + R_5}R_5 + v_p \\
v_{OPA-}=\frac{v_{out} - v_{in}}{R_1 + R_2}R_1 + v_{in} \]
となります。オペアンプは\(v_{OPA+}=v_{OPA-} \)となるので、\(v_{out} \)について解くと
\[\frac{R_1}{R_1 + R_2}v_{out}=\left(\frac{R_5}{R_3 + R_5} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}\right)v_{in} + \frac{R_3}{R_3 + R_5}v_p \]
となり、\(v_{in} \)の項を0にしたいのでそれを満たすには、
\[\left(\frac{R_5}{R_3 + R_5} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}\right)=0 \]
\[R_1:R_2=R_3:R_5 \]
となれば良いです。また、出力ゲインは、
\[v_{out}=v_p \]
となり、1で固定です。ブリッジを使用したものに比べて抵抗が少ないのは良いですが、ゲインが変更できません。
出力のゲイン調整ができるハイブリッド回路
これまでは、全て出力(電話のマイクの出力信号)のゲインが1でしたが。場合によってはマイク用のADCに入力するには大きすぎて音割れしてしまうので、直流抵抗を下げることなく、小さくしたいです。前の回路に抵抗\(R_4 \)を加えることで可能となります。
このとき、\(v_{OPA+}\)は\(i_{R3} \)が\(R_3 \)を左から右に流れる電流、\(i_{R5}\)も同様に左から右の電流、\(i_{R4} \)を上から下とすると、
\[\left\{ \begin{array}{l}
v_{OPA+}=i_{R4} R_4 \\
i_{R4}=i_{R3} - i_{R5} \\
i_{R3}=\frac{v_{in} - v_{OPA+}}{R_3} \\
i_{R5}=\frac{v_{OPA+} - v_p}{R_5}
\end{array} \right. \]
と立式でき、これを解くと\(v_{OPA+} \)と\(v_{OPA-} \)(1つ前の回路と同様)は以下の様に表されます。
\[v_{OPA+}=\frac{R_4 R_5}{R_3 R_4 + R_3 R_5 + R_4 R_5} v_{in} + \frac{R_3 R_4}{R_3 R_4 + R_3 R_5 + R_4 R_5} v_p \\
v_{OPA-}=\frac{v_{out} - v_{in}}{R_1 + R_2}R_1 + v_{in} \]
オペアンプは\(v_{OPA+}=v_{OPA-} \)となるので、\(v_{out} \)について解くと
\[\frac{R_1}{R_1 + R_2}v_{out}=\left(\frac{R_4 R_5}{R_3 R_4 + R_3 R_5 + R_4 R_5} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}\right)v_{in} + \frac{R_3 R_4}{R_3 R_4 + R_3 R_5 + R_4 R_5} v_p \]
となり、\(v_{in} \)の項を0にしたいのでそれを満たすには、
\[\frac{R_4 R_5}{R_3 R_4 + R_3 R_5 + R_4 R_5} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}=0 \\
\frac{R_4 R_5}{R_4 + R_5} = \frac{R_2 R_3}{R_1} \]
となり、出力は
\[v_{out}=\frac{R_2 R_3}{R_1 R_5}v_p \]
となります。ここでゲインを\(n \)と置くと、2つの式は
\[R_2:nR_1=R_5:R_3 \\
R_4:R_5=n:1-n \]
と表せます。これで、抵抗を一本追加するだけでゲインを決定できるようになりました。試しに、トランスのインピーダンス\(R_5 \)を600 Ω、ゲイン\(n \)を1/4として計算をしてみると、
\[R_4:R_5=n:n-1 \\
R_4:600=1:3\\
R_4=200 \]
\[R_2:nR_1=R_5:R_3 \\
4R_2:R_1=600:R_3 \]
となります。\(R_1, R_2, R_3\)は割と自由に値を設定することができます。\(R_2\)を5 kΩ、\(R_3\)を600 Ωとすると、\(R_1 \)は20 kΩと決まります。シミュレーションもしてみます。\(v_{in} \)は1 kHz振幅2 Vの正弦波、\(v_p \)は10 kHz振幅2 Vの正弦波です。出力\(v_{out}\)は計算通り、\(v_p \)の1/4振幅だけが現れており、\(v_{in} \)は混じっていません。
トランスが不要なハイブリッド回路
電話線・交換機側の素性がわかっている場合は、コンデンサでカップリングすることで、トランスによる絶縁はある程度不要とすることができます。その場合は、トランスが行っていたインピーダンスマッチングを回路内で行う必要があります。ハイブリッド回路と電話までの経路長が十分に短い場合は、インピーダンスマッチングを取る必要は余りありませんが、気持ち的な問題でマッチングさせることにしました。
ブリッジを使ったハイブリッド回路をベースにしています。こうすることで、インピーダンスマッチングを取りながら、ゲインの調整を行うことができます。等価回路はこのようになります。
一番はじめのブリッジを使ったハイブリッド回路と同じです。そのため、計算もここでは省略します。追加でインピーダンスマッチングを取りたい場合は、
\[R_1 = R_2 + R_3+ R_4\]
となればよいです。
トランスが不要なハイブリッド回路
\(R_6, R_7 \)などを考慮する必要はありませんでした。トランスをなくして直接繋げば良いだけでした(必要に応じてインピーダンスマッチングは取る)。
これまでの回路は、全てトランスを使用してインピーダンスを600Ωに揃えていました。しかし、トランスはサイズがあり、コストがかかるので、コンデンサによるでカップリングに変更したいです。前の回路の抵抗値を電話内部のインピーダンス(数100Ω)に比較して十分に大きい値にすれば問題ないように感じますが、\(v_{in}\)が小さくなってしまいます。
トランスによるインピーダンス変換が行われないので電話内部の抵抗を考慮する必要があります。それを踏まえた等価回路はこのようになります。
\(R_5' \)は電話内部の抵抗値と\(R_5 \)の合計値です。ここで、\(R_4, R_5', R_6,R_7 \)のπ型回路をT型回路に変換するとこのようになります。
π型回路とT型回路の変換式は以下の通りです。
\[Z_1=\frac{R_4 R_5'}{R_4 + R_5' + R_6} \\
Z_2=\frac{R_4 R_6}{R_4 + R_5' + R_6} \\
Z_3=\frac{R_5' R_6}{R_4 + R_5' + R_6} + R_7 \]
\(v_{OPA+}\)は\(i_{Z1} \)が\(Z_1 \)を左から右に流れる電流、\(i_{Z3}\)も同様に左から右の電流、\(i_{Z2} \)を上から下とし、\(v_z\)を\(Z_1, Z_2, Z_3 \)のノードの電圧とすると、\(v_{OPA+} \)周りの式は以下のように立式でき、
\[\left\{ \begin{array}{l}
i_{Z1}=i_{Z2}+i_{Z3} \\
i_{Z1}=\frac{v_{OPA+} - v_z}{Z_1} \\
i_{Z2}=\frac{v_z}{Z_2} \\
i_{Z3}=\frac{v_z - v_p}{Z_3}\\
v_{OPA+}=v_{in} - i_1 R_3
\end{array} \right. \]
これを解くと\(v_{OPA+} \)と\(v_{OPA-} \)(1つ前の回路と同様)は以下の様に表されます。
\[v_{OPA+}=\frac{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3}{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3 +Z_2 R_3 + Z_3R_3} v_{in} + \frac{Z_2 R_3}{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3 +Z_2 R_3 + Z_3R_3} v_p \\
v_{OPA-}=\frac{v_{out} - v_{in}}{R_1 + R_2}R_1 + v_{in} \]
オペアンプは\(v_{OPA+}=v_{OPA-} \)となるので、\(v_{out} \)について解くと
\[\frac{R_1}{R_1 + R_2}v_{out}=\left(\frac{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3}{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3 +Z_2 R_3 + Z_3R_3} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}\right)v_{in} + \frac{Z_2 R_3}{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3 +Z_2 R_3 + Z_3R_3} v_p \]
となり、\(v_{in} \)の項を0にしたいのでそれを満たすには、
\[\frac{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3}{Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3 +Z_2 R_3 + Z_3R_3} - \frac{R_2}{R_1 + R_2}=0 \\
R_1(Z_1 Z_2 + Z_1 Z_3 + Z_2 Z_3)=R_2 R_3(Z_2 + Z_3) \]
となり、出力は
\[v_{out}=\frac{Z_2}{Z_2 + Z_3}v_p \]
となります。ここでゲインを\(n \)と置くと、2つの式は
\[R_1:R_2=R_3:Z_1+nZ_3 \\
Z_2:Z_3=n:1-n \]
と表せます。この式はT型等価回路での式なので、π型回路に戻します。戻すと
\[R_1:R_2=R_3:\frac{nR_5(R_6+R_7)+nR_6 R_7}{R_6} \\
R_4=\frac{nR_5(R_6+R_7)+nR_6 R_7}{R_6(1-n)-nR_7} \]
となります。\(R_6 \)と\(R_7 \)は電話内部のインピーダンスなので、\(R_5 \)と\(R_4 \)がその影響を受けます。\(R_1, R_2, R_3 \)は比較的自由に設定することができます。
試しに、\(R_6 \)を200 Ω、\(R_7 \)を100 Ω、ゲイン\(n \)を1/4とし、\(R_1 \)を20 kΩ、\(R_2 \)を5 kΩ、\(R_3 \)を600 Ωとして、計算をしてみると、\(R_4=240 \) Ω、\(R_5'=333.3 \)Ωと算出されます。
おわりに
計算大変だった。これをベースにATAを作成していきます。










